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2017年6月29日 (木)

北円堂の秘密・その1(大町阿礼・作)

歴史ファンタジー小説・北円堂の秘密(大町阿礼おおまちあれい・作)

不許複製(コピー不可)、小説の内容はフィクションです。

1 「そもそもの始まり」

古都大学准教授上津京介(かみつきょうすけ)は専門の理学部では万年准教授であったが専門外の歴史学については専門家よりも造詣が深く自負心も旺盛だった。大学が春休み中のとある日のこと、退屈だったせいか、ふと年下の親友の一人、史美(ひとみ)の歴史学教室を覗いてみようと思い立った。それがそもそもの始まりであった。史美は研究室の中で珍しく本を積み上げて何かに取り組んでいる風であった。京介の顔を見ると史美は独り言のように「分からないのよね不比等って」とつぶやいた。「ふひと」って言ったのかと京介も豆鉄砲を食らったハトのように面食らった。

京介の歴史好きは時代区分としては中世以降でありどちらかと云うと古代はよく知らなかった。京介の理解は日本の歴史の始まりは古事記に描かれた神話の世界そのものであり、神話以外の何ものでもなかった。また日本書紀に記された古代史は六国史につながり古代律令国家の動静が編年体で逐一叙述されているものと考えていて面白くも可笑しくもない古代国家の記録でありこれを何の手がかりも無しに机上で読み解いたり深読みすることはむしろ時間の無駄であるとさえ思っていた。

近年考古学の進展が著しくて出土品が物的証拠として少しは紙上を賑わしているけれども邪馬台国論争でさえいまだ決着を見ていないではないかと、この日本歴史の古代以前の解明が大層遅れているとの認識は京介の学生時代からのものとそう変わらないのであった。京介が「何か困りごとかい」と問いかける前に史美から「ねえ手伝って下さらない。上津先生!」といつもは「京介さん」と呼ぶところを丁寧に先生呼ばわりしてきた。一回り年下の自分と同じ未年生れの史美を歴史的興味で相手をしている時は京介にとっては一番気の許せる時間でもあった。

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